レポート|11/29(金) 特別プログラム「DE&Iの仕組み化を “Emotion” と “フラクタル” で捉えてみる」

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2024年11月29日、三菱電機株式会社 名古屋製作所にて『特別プログラム「DE&Iの仕組み化を “Emotion” と “フラクタル” で捉えてみる」』が開催されました。

今回のプログラムでは、“Emotion Driven” と “フラクタル” という2つの概念を切り口として、DE&Iをいかに組織に実装するか(仕組み化するか)について掘り下げました。

第1部では、丸本瑞葉様(株式会社SciEmo)、蓮行先生(京都大学特定准教授)をファシリテーターとして、感情を起点としたアイディエーションのワークショップ “EmoLab” を参加者の皆さんに体験していただきました。第2部では、テーマスピーカーとして三菱電機株式会社とスギメディカル株式会社の方々にご参加いただき、各社の取り組みを元に、対話を深めました。以下に当日の様子を報告いたします。

<登壇者>
第1部
ワークショップ
“EmoLab” 感情を起点にしたアイデア創出によるDE&Iアプローチの探索
[ファシリテーター]
 丸本 瑞葉 氏(株式会社SciEmo 代表取締役 / CEO)
 蓮行(京都大学経営管理大学院特定准教授 / 劇団衛星代表)

第2部
クロスオーバーミーティングDE&Iの仕組み化を “フラクタル”で捉えてみる
[モデレーター]
 蓮行(同上)

[テーマスピーカー]
​​三菱電機株式会社
 平井 正人 氏(統合デザイン研究所 ライフクリエーションデザイン部)
 橋本 和子 氏(サステナビリティ・イノベーション本部 共生社会推進G)
 横田 隆洋 氏(名古屋製作所 生産システム推進部)
 澤山 美絵 氏(福山製作所 生産システム推進部)

スギメディカル株式会社
 杉浦 伸哉 氏(代表取締役社長)

冒頭では、蓮行先生より本コンソーシアムの活動趣旨についてご紹介するとともに、今回のテーマのひとつである「フラクタル」についてのお話がありました。

フラクタルとは、フランスの数学者ブノワ・マンデルブロによって提唱された幾何学の概念で、「全体と部分が似た構造を持つ図形」を指します。このフラクタルの概念をもとに、蓮行先生は、社会全体と個人の内面が自己相似的に構造を共有していると考える視点を提案されました。

例えば、会社同士や国同士の関係性をさらに近づいて拡大してみると、社員同士のつながりや、ある社員の心の中で起きる葛藤に行き着きます。一方で、その個人の内面の葛藤を引いて俯瞰してみれば、それは社会全体の大きな課題や対立の縮図であるとも言えるでしょう。

このように、社会全体と個人の内面はフラクタルのように相似していると捉えることができ、この視点を用いることで、課題解決や相互理解の新たな可能性を探ることができるのではないでしょうか。

丸本 瑞葉様(株式会社SciEmo 代表取締役 / CEO)

第1部では、株式会社SciEmoの丸本様より、「Emotion(感情)」を起点としたDE&Iのアプローチについてご紹介いただき、ワークショップ形式でその手法を体験しました。
丸本様はこの手法を、教科書に書かれた理論と、実際の現場での実践とのギャップを感じたことから考案されたそうです。

ワークショップでは、共感を起点とした新しいサービス創出のプロセスを体験しました。前半では、チームごとに「最近の流行」をピックアップして分析し、それらの流行のどういったところに人々は共感するのかという感情を抽出しました。
後半では、チームごとに抽出した感情をもとに「新しい職場の共有スペース」のアイデアを考案し、さらにそのアイデアを演劇形式で発表するという実践的な内容が行われました。

最後に丸本様から、「新しいことを始めるとき、同じジャンルや競合他社から着想を得ることが多いかもしれません。しかし、自分とは異なる人物の視点に立ち、その人たちが何に、なぜ共感するのかを考えることで、普段は思いつかない新しいアイデアを生み出すことができるのではないでしょうか。」というコメントをいただきました。

休憩ののち、第2部では「DE&Iの仕組み化を “フラクタル”で捉えてみる」というタイトルの元、クロスオーバーミーティングを行いました。

クロスオーバーミーティングの簡単な説明は『レポート|11/5(火)「アート×投資家×DE&I」クロスオーバーミーティング -投資家からみたDE&I-』をご覧ください。

平井 正人様(三菱電機株式会社 統合デザイン研究所 ライフクリエーションデザイン部)

まず、平井様よりご自身が開発された「しゃべり描き」というアプリをご紹介いただきました。このアプリは、話した言葉を音声認識し、画面上で指を使ってなぞった箇所に文字として表示することができるコミュニケーションツールです。

開発のきっかけは、耳の不自由な学生がインターンとして研究所を訪れた際、コミュニケーションの課題を実感したことでした。聴覚障害の方とコミュニケーションを取るにあたって、手話や筆談といった従来の方法は、特別なスキルや時間的な負担がかかります。一方で、耳の不自由な方に資料を指さしながら説明しても実は話が理解できていないことを知りました。指先と唇の動きを両方同時に見ることができないからです。そこで、指先に文字を表示する新しい表現方法として、このアプリが考案されました。

「しゃべり描き」は、耳の不自由な方だけでなく、日本語が話せない外国人とのコミュニケーションや、写真を装飾してSNSにアップするといった用途でも活用されています。

しゃべり描き®UI | 三菱電機 デザインの仕事 | 企業情報 | 三菱電機

橋本 和子様(三菱電機株式会社 サステナビリティ・イノベーション本部 共生社会推進G)

続いて、同じく三菱電機株式会社の、サステナビリティ・イノベーション本部 共生社会推進グループに所属されている橋本様より、バスケットボール選手としてのご経験や、日本車いすバスケットボール連盟へのご出向中のエピソードをお話しいただきました。橋本様は、三菱電機のバスケットボールチームで10年間選手として活躍され、2019年9月から2024年9月まで連盟にて広報・車いすバスケットボール男子日本代表コーディネーターを務めていらっしゃいました。

車いすバスケットボール選手の競技用車いすと普段の車いすを持参しての遠征など、選手特有の課題についても共有いただき、参加者から大きな関心が寄せられました。

横田 隆洋様(三菱電機株式会社 名古屋製作所 生産システム推進部)

次に、三菱電機株式会社 名古屋製作所 の横田様より、名古屋製作所で2人の女性によって自発的に立ち上げられた「スマイリー活動」についてご紹介いただきました。この活動は、妊婦さんや足腰に不安を抱える方の負担軽減を目的に、「靴取り名人」と呼ばれるツールの開発や妊婦体験プロジェクトなど、働きやすい環境づくりを推進しています。

また、「いたわりエリア」という優先席のようなスペースの設置により、足腰の弱い方への配慮を促すための取り組みも進めており、活動が全社的に広がっているようです。

3名のご紹介が終わった後、ここで蓮行先生も含めたスピーカーの方を中心とする会場全体でのディスカッションが行われました。成果を出し続ける方法、スマイリー活動が始まったきっかけとその広がりといった話題について関心が寄せられました。

澤山 美絵様(三菱電機株式会社 福山製作所 生産システム推進部)

続いて、三菱電機株式会社 福山製作所の澤山様にお話をいただきました。

組織風土改革やDE&I推進に取り組む澤山様は、蓮行先生がプログラムディレクターをされている京都大学ソーシャルコミュニケーションデザイナー養成講座(SCD)の第1期生として、講座での経験を共有してくださいました。京都大学SCDでの学びをもとに、ロジカルとマジカルの表現を行き来する対話トレーニングゲーム教材を開発し、2024年の京都ゲームマーケットへの出展もされたようです。
澤山様は、構成員の創造性を引き出す組織づくりを目指しておられ、今後も活動を広げていく意気込みを語られました。

杉浦 伸哉様(スギメディカル株式会社 代表取締役社長)

最後に、スギメディカル株式会社の代表取締役の杉浦様より、京都大学SCD第1期生でもある社員の方々への質疑応答を通じて、スギメディカル株式会社の取り組みや企業理念について、特に「薬剤師の価値向上」と「協力による発展」についてお話しいただきました。

杉浦様からは「専門職である薬剤師がどのように地域社会と協働し、信頼関係を築くか」が今後の課題であるとのお話しがあり、コミュニケーションの重要性を強調されました。特に、薬剤師の役割に注目し、「その価値をどのように伝え、業界全体の成長に繋げられるか」を探る取り組みを進めていることを述べられました。

続いて発言した石岡様は、スギメディカル株式会社に関連する多様なバックグラウンドに触れ、「新しい文化や考え方を共有し、一体感を作ることが今後の重要な課題」と述べました。そのためには、社内でのコミュニケーションをさらに活性化させる取り組みが必要だとし、今後の展望を共有いただきました。

一方、スギ薬局の薬剤師である藤田様は、SCDを通じて学んだ「視野を広げる力」と「共感を生む対話」の重要性を語られました。藤田様は、薬剤師という狭い領域に留まらず、業界全体の発展を見据える視点を持つことが必要だと強調し、「1人勝ちではなく、他者と協力しながら全体の価値を高めていく」という姿勢が、SCDでの学びを通じて深まったと述べられました。

この質疑応答を通じ、参加者全体で「視野を広げ、共感を生む発想」の重要性が共有されました。

ワークショップとクロスオーバーミーティングとの2本立てという、非常に濃密であったプログラムを通じて、DE&I推進の多様なアプローチやその可能性が示される場となりました。

また、本イベントに関するレポートを、三菱電機様のnote「ミツビシデンキ ヘンカクの音」にもご執筆いただいております。
【開催レポート】京都大学コミュニケーションデザインとDE&Iコンソーシアム特別プログラム
こちらも併せてご覧いただけますと幸いです。

以上、『特別プログラム「DE&Iの仕組み化を “Emotion” と “フラクタル” で捉えてみる」』の報告でした。参加者の皆様、および関係者の皆様に心より感謝申し上げます。