2024年6月28日(土)に、京都大学コミュニケーションデザインとDE&Iコンソーシアムが主催するキックオフシンポジウム「〈私〉たちの声から始めるDE&I」を開催しました。雨の中たくさんの方がご参加くださいました。
このシンポジウムは、社会全体の多様性、公平性、包括性(DE&I)を推進することを目指して、「ひとりひとりの声をもとに考え、一緒になって課題に向き合う場をつくりたい」という趣旨に則って企画されました。本コンソーシアムの会員企業のみなさんとシンポジウムに参加されたみなさんとが一緒になって、「DE&I」という難しいテーマについて、ひとりひとりの声をもとに考えられるような場を目指していましたが、どの程度実現できていたでしょうか。
第1部・第2部に分けて当日のレポートを作成しましたので、当日の様子が少しでも伝われば幸いです。また、本イベントに参加された方には当日の感覚を振り返りながらお読みいただければと思います。
第1部
第1部では、コンソーシアムの共同代表である京都大学経営管理大学院の蓮行先生からの趣旨の説明のあとに、各テーマスピーカーの方の事例紹介とクロスオーバーミーティングが行われました。
まず、蓮行先生が開会挨拶を行い、このコンソーシアムについて、「DE&Iを考え、実践するためのプラットフォームとして、たくさんの人の知を集めることでよりより知が見つかり、生み出されるような「集合知」を生成するための場にしたい。」と話され、その際に「一人も取り残さない」というコンセプトを「建前で終わらせない」として実践に移す重要性も強調されました。また現場でのコミュニケーションデザインの実践と人材育成の必要性や、コンソーシアムの活動が地域社会や企業との連携を通じてどのように進められているかについても説明がありました。
次に、テーマスピーカーからの事例紹介で、まず特定非営利活動法人happiness理事長の宇野さんよりご自身の運営される子供食堂などのお話を聞きました。宇野さんは、「関わる全ての人にHAPPINESSを」を理念として、地域のコミュニティ形成において子供食堂の果たす役割や、関わっている大人同士がそれぞれ自分の個性を認め合える環境を作ることで子供達も認め合えるようにしたいこと、そのために多様な背景を持つボランティアがそれぞれの得意なことでお手伝いされていることなどのお話がありました。
続いて、スギメディカル株式会社 代表取締役社長の杉浦さんよりスギ薬局グループの事業についてご紹介頂きました。杉浦さんは、地域貢献と社員の幸せを優先する理念についてご説明され、スギ薬局グループが医療や介護分野でのトータルヘルスケアの実現を目指していること、また、ヘルスデータの共有・活用をすることで一人一人にあった患者のケアに役立てたいということについても言及されました。
最後に、三菱電機株式会社 産業メカトロニクス製作所 FA本部 DE&I推進チームリーダーの山本さんより、同社のDE&Iに関する取り組みをご紹介頂きました。山本さんは、トップのメッセージや社内のイベントなどを通じて、多様な価値観を受容する社内環境作りを進めている話をされました。また世界のDE&Iのイベントに合わせて社内浸透を進めたり、DE&Iを取り組む理由や活動方法をそれぞれの部門で自分ごととして考えるといった取り組み、そしてそうしたDE&Iの取り組みをNoteなどで情報公開されているなどのお話もありました。
そしてこれらのお話を受けて、株式会社SciEmo代表取締役 / CEOの丸本瑞葉さんも交えてクロスオーバーミーティングが行われました。蓮行先生をファシリテーターとして、テーマスピーカーや参加者の方々たちと、企業の大小や年齢、人材などさまざまな観点から、DE&Iのダイバーシティの考え方や、偶発性のある新たな価値の創出などについて集合知を生み出していきました。
このように、第1部では、各分野でのDE&Iの取り組みや、クロスオーバーミーティングによる集合知について身近に学べる貴重な機会となりました。第1部の対話のなかでは、「貧困・虐待」、「個性を活かす」、「社員の幸せ」といった多様な視点が提示されましたが、参加者も真剣な表情で聞き入り、気になったことを心に留めていました。
第2部
第2部の内容は、ワークショップ「“DE&I” を考える、聴衆参加型クロスオーバーミーティング」。第1部では、5人のテーマスピーカーのクロスオーバーミーティングを聞く形式でしたが、第2部では参加者の皆さんにも「インタラクター(対話者)」となってもらい、参加者全員でDE&Iについて考える内容でした。
会場デザインも、15分の休憩時間の間にガラリと変わりました。第1部では、参加者が同心円状に座り、中心に座るテーマスピーカー5人の話に耳を傾けるようなレイアウトでしたが、第2部では4〜6人ずつで座るテーブルが複数つくられ、参加者がさまざまな人と対話を繰り返すためのレイアウトになりました。第1部では「話を聞く、考える」という活動が促されるような空間でしたが、第2部では「話し合い、考え合う」という活動が促される空間となっていました。
今回のワークショップは、複数のテーブルを移動しながら参加者同士で自由に対話し知見を共有していく「ワールドカフェ」の手法を参考にデザインしました。その上で今回は、それぞれのテーブルを「島」のようなものに見立てて、島から島へ「旅」をしながら、様々な文化背景を持つ方々との対話を重ね、文化交流を図るような雰囲気で学びを深めていきました。
まず、対話を始める前に、ファシリテーターから「LOVE」のグラウンドルールが共有されました。
- Listen 聞きあおう
- Open オープンマインドで
- Value すべての意見に価値がある
- Enjoy 対話を楽しもう
それぞれのテーブルは、(1)第1部のテーマスピーカーと参加者が混ざり合って第1部の内容をフィードバックをしあうテーブル群と、(2)第2部からの新たなテーマスピーカーから提供してもらった話題について深掘りするテーブル群とに分かれており、各テーブルに「お題」が配られて対話を進めました。
具体的には、以下のように進行されました。
1:自己紹介
- 自己紹介シートを作成
- 自分の名前、住んでいる地域、最近驚いたこと、好きな場所を記入して自己紹介
2:触れてみる(支援機器の活用)
- 耳栓やアイマスクをつけて、筆談具やコミュニケーション支援アプリを使用しながら会話する体験や、車椅子(電動/手動)の体験
3:考えてみる(個人ワーク/話題提供、テーマ決定、深堀り)
- 第1部の内容について対話するグループは、第1部で考えたことを個人でふりかえり
- 第2部からの新たなテーマスピーカーのグループは、話題提供を受ける
- 模造紙に書きながら考えたことをシェアして、もう少し深めたいテーマを1つ決める
- 1つに決めたテーマについて、対話を進める
4:旅に出てみる(留守番の人から説明を受け、旅人は他のテーブルで対話)
- テーブルに1人だけ残り、他の人は別のテーブルへ
- それぞれのテーブルで、模造紙に書きながら対話を進める
5:旅に出てみる(留守番の人から説明を受け、旅人は他のテーブルで対話)
- テーブルに1人だけ残り、他の人は別のテーブルへ
- それぞれのテーブルで、模造紙に書きながら対話を進める
6:旅の思い出を話してみる(個人ワーク、シェア、深掘り)
- 最初のテーブルに戻る
- 一人一人で、他のテーブルに移動して印象に残ったことを記録
- テーブルで設定されたテーマに改めて立ち返って対話を進める
7:発表してみる(第二部テーマスピーカーチームによる発表)
- 第2部からのテーマスピーカーのグループは、全体に向けて、対話した内容をシェア
熊谷さんには、会場内で「多様性」をテーマとした絵本の展示も行っていただきました。
それぞれのテーブルでは、「多様性を受け入れる不安」、「価値観の押し付け」、「子供とのコミュニケーション」、「ワークライフバランス」、「人口減少の未来の村」など、DE&Iに関わる様々なテーマについて、参加者それぞれの視点で対話を進めていきました。参加者は、それぞれの経験や考えを共有しながら、お互いの理解を深めている様子でした。
最後に「発表してみる」として、第2部テーマスピーカーのチームによる発表があり、各テーブルの対話した内容について共有されました。
そのなかでは「議論が多岐に渡ったので、まとめるのが難しい」との声もありましたが、DE&Iに向けた取り組みを進める上での重要な指摘がたくさん含まれていたと感じます。
多様性を大事にすると伝えるだけでなく、コミュニケーションを続けることが大事ではないか
相手の困ったことを解決しようとしてもずれることがある。弱者とかハンディで捉えるのではなく、文化交流をすることで生まれるものがアクションにつながるのではないか
二項対立で捉えるだけでなく、曖昧さを受け入れること(あの人はこう、私はこう)が重要じゃないか
過渡期的には(DE&Iの推進が)上からの強制で進むということもあるのではないか
最後に
今回のシンポジウムでは、第1部・第2部ともに蓮行の提案する「クロスオーバーミーティング」の方式をとり、「参加者ひとりひとりの声を元に対話を進める」ことを重視していました。この方式だと議論としては基本的に拡散したものになるので、「重要な気づきを得た」と感じた人もいれば、なかには「消化不良だった」と感じた人もいるかと思います。いずれにせよ、このまま「よかったな」や「消化不良だったな」という感覚で終わってしまうと、もったいないと思います。
蓮行先生からの最後の挨拶にもありましたが、今回のシンポジウムは「きっかけ」として、「明日以降、できれば3ヶ月以内に、何か1つ具体的なアクションを始める」ことに挑戦してもらいたいと思います。参加された皆さんからのご報告、フィードバックもお待ちしています。
また、本コンソーシアムで行う企画は「多くの人の声が集まる場にする必要がある」と考えております。今回のキックオフシンポジウムでは、「お子さん連れで参加しやすい場づくり」と「情報保障やユニバーサルデザインの改善に向けて考える機会とすること」に取り組んでいました。具体的には、明るい雰囲気の会場を選ぶ、キッズスペースを設置する、文字通訳を導入する、いろいろな支援機器を体験する時間をつくる…などの対応を取り入れていました。
運営チームとしては、今回の対応は決して十分なものではなかったと考えていますが、今回取り組んだことで次回以降に向けて改善したい点が見つかりました。今後も、本コンソーシアムの企画にはさまざまな方に参画してほしいと考えていますので、継続して改善を続けていきます。是非皆さんからも、今後に向けたご意見等をうかがえれば幸いです。